2011年2月7日月曜日

移民の市民化プログラム

オランダの子どもの学校についていくつか触れたので、今度は大人の学校のことを。

母が父のパートナーとしてオランダに移住したのは2005年のこと。
移民として滞在許可を得るには厳しい条件があり、それをクリアしないことには送還の憂き目に
あってしまう。どうにかこうにか移民局の許可が下り、滞在許可証のカードが手元に届いたのは、
こまめが生まれた後のことであった。

それから更に半年以上経ったある日、移民の市民化プログラムに従って市役所・移民・教育組織
を仲介する事務所より、講座に通えとの通知が届いた。
講座の内容は、オランダ語とオランダの社会常識。これらを備えてこそ市民としてオランダ社会
に馴染める、との計らいであり、増え続ける無知な移民による社会基盤の崩壊を憂えての、国と
自治体を挙げての対策である。
オランダの移民法では、移民は市民化プログラムに沿った教育を受けた上で、上記2科目(語学
と常識)の試験にパスしないと、罰金を科せられた上、長期もしくは無期限滞在の資格がもらえ
ないことになっているのだ。

母が通うことになったのは、市内のROC(Regionaal opleidingencentrum、地方教育センター)と
いう、青年向け職業訓練校と社会人学校の合体した教育施設である。
そこで週に4日、11時間の授業を1年間受けることになった。

当時の移民法(*)では、学費はもとより、教材費、通学にかかる交通費、こまめを預けた保育園
の費用の一部、そして試験料のすべてが市によってまかなわれた。こんな有難いお膳立て、利用
しない手はない!と発奮して通い始めたのだった。

(*移民法はしょっちゅう改正されるので、ここ数年でもその条件はおそろしく変化している。
  母の頃には、試験にパスさえすればプログラムの学費はすべて免除であったのだが、その後
  一部負担になり、そのうち全額自己負担になるとのことである。)

プログラムの対象となる移民の教育レベルは、文盲から大卒まで、実に幅広い。
どのクラスに編入されるかは、講座開始前のレベルチェックテストで決められる。

母のクラスメートは、
・オランダ人男性の元に嫁いだ女性(ブラジル、ロシア、ポーランド、マレーシアなど)
・オランダ在住の遠縁の女性と結婚してオランダにやってきたモロッコ人男性
・Au Pairとしてオランダ人家庭に住み込んでオランダ語の勉強をしているポーランド人女性
・移民法が施行される前に移住したイラン人夫婦の奥さん(遡って義務を課せられているケース)
・難民としてオランダにやって来たアフガニスタンの小児科医の女性
などであった。

レベルのちがいは使用する教科書の内容からも見て取れた。
「Code1」(学歴のある初級者向け)では日常的な挨拶や電話でのピザの注文の仕方、道の訊ね方
など実際的な内容だ。
続く「Code2」(同じく有学歴の中級者向け)では子どものしつけについて考えたり、趣味や余暇
の過ごし方について話をしたり、履歴書の書き方や就職面接のことなどとなる。
更に「Code3」(同じく、上級者向け)では安楽死などの医療倫理や環境問題について議論する…
といった具合である。

この教材はマルチメディア仕様で、各課のトピックに合わせたビデオ素材などが付録のCDに
おさめられていて、例文の発音を正しくチェックすることもできる。これを家で宿題として
こなしたり、学校のコンピュータールームでおさらいすることもあった。
コンピュータールームでは、レベルに応じた文法や語彙を強化する為のソフトや模擬試験を
使って自習することもできた。

会話は、学食で休憩時間にお茶を飲んだりお昼を食べたりしながら、一番鍛えられたと思う。
リラックスした雰囲気の中、実践あるのみ、というわけだ。
持参のおやつにもお国柄が出ていたりして、面白かった。
残念だったのは、モロッコ系など多人数のグループを組織する人たちが、当然なのだけれど、
自国語でしゃべりまくっていたこと。幸か不幸か、日本人は見かけなかったので、自分には
オランダ語しかなかったわけだ。

さて、1年間の学校通いの最後の締めくくりが、試験である。
オランダ語の試験は、学校の試験室が会場であった。読む・書く・話す・聞くの4科目を、
同時期の対象者が一斉に受ける。センター試験のような雰囲気で、そういった試験に不慣れな
人もおり、緊張のあまり途中でおかしくなって退室してしまったのには驚いた。

社会常識の試験は、コンピュータールームで各自やることになっていた。
内容は、基本問題が「仕事と収入」「住居」「健康」「交通」「その他」の各分野より計28問。
それから「教育」「医療」「余暇」「子ども」「税金」のうち2つを選択する問題が各6問。
失業保険を申請するのはどこ?車で事故にあったらどうする?義務教育の年齢は?といった
質問の答えを選択肢から選ぶ。正答率80%以上で合格である。

さて、晴れて合格して免状を手にしたら、市民化プログラムは修了。大手を振って表を歩ける
わけであるが、実はもうひとつ、任意の試験がある。
NT2(Nederlands als tweede taal、第二言語としてのオランダ語)という検定試験である。
2段階のレベルがあり、例えばオランダの大学に入学したければレベル2が必須、高校では
レベル1、といったように、基準の確かな資格として扱われる。
これも、ROC在学中に受験すれば試験料が免除とのことだったので、思い切って受けておいた。

学食での会話のように、その後の実際的なコミュニケーションは他のお母さん達と話したりする
ことで格段に伸びた。
それから、我が家では新聞を購読しているのだが、おちおち座って読む暇などないのが現実だ。
気が向いたらざっと目を通してみるのだが、いかに短時間で記事の主旨をつかめるか、これも
いいトレーニングになっていると思う。
まだまだ言い間違いも聞き間違いも多いが、こちらも程々にブラッシュアップしておかないと、
いずれ子らが成長した時に話についていけなくなる恐れ大なので、厳しい試験とは無縁であるが、
おしりに火がつきそうな状況は常に継続中というわけなのである。

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